INTERVIEW インタビュー

 

――小山さんが担当されている音響効果というお仕事をご紹介いただけますか?

簡単にいえば、音楽とセリフ以外のすべての音をつける仕事です。足音とか、『凪のあすから』の場合ですと海の音、1クール目ならセミの鳴き声、2クール目なら風や流氷の音などもそうですね。

――使用する音はどのように用意されるのでしょうか?

現実にない音は音のデータを作りますし、足音や小物、人が動いて出す音は画に合わせて生音を録音します。それをパソコンで編集して現場に持って行き、音楽やセリフと一緒に効果音をつけてみて、監督や音響監督に確認してもらいます。

――『凪のあすから』は最初どういう経緯で参加されることになったのでしょうか?

明田川(仁)音響監督が所属されているマジックカプセルさんから、お声掛けしていただきました。最初に篠原(俊哉)監督、辻(充仁)アニメーションプロデューサー、明田川音響監督と打ち合わせをしたのですが、その時篠原監督が、「この作品はファンタジーです」と強くおっしゃっていたのが印象に残っています。あと具体的には、表現をあまりリアルにすると、特に音は嘘をつかなければならないことばかりになるので、海の中も基本は地上と同じでいい。ただ時々、大きなジャンプなど海の中特有の動きがあるので、その時だけは気泡の音などを出したい、というお話がありました。実は第1話も、テストの段階ではもっと海の中っぽい環境音をつけていたんです。しかし、篠原監督がそういう音はなくていいとおっしゃったので、作品における音の方向性は掴めました。ファンタジーではありますが恋愛の要素も強いので、音作り自体はリアル志向で。尖ったことはせず、音をあまり強調しないようにしました。

――海の物語なのに、珍しいオーダーですよね。

そうですね。なので、海の中では海を意識した音はつけなくても、1クールにあったように海から外に出たら、急にセミの音がうるさく聞こえるといったような差別化はしています。2クールは逆に海中があまり出てこないので、海の中を泳ぐ描写に海中であることを意識させる音をつけ、外に出たら鳥が鳴いているくらいの静けさを表現したり。そこで地上の寒い空気も感じられますからね。そういう1、2クールでの強弱の付け方は、やっていても面白かったです。

――いちばん最初に作られた音はなんでしたか?

第1話の頭で、家の中を泳いでいる魚の音ですね。ぞうきんを濡らしてペタペタ音をさせたものを録音しました。普通は、魚が泳いだ時の水の流れの音をつけるんですが、『凪のあすから』でそれをやると暗い印象を受けてしまう。『凪のあすから』の海中での魚は、地上でいえば鳥のような存在なので、もっと明るい音にしたかった。ぞうきんを濡らして録る音は、魚が陸に上がって元気にペチペチ跳ねる時によく使う音。今回は水の中で使ってみました。

――音響効果に関しては既成概念から外れたこともなさっていたんですね。ほかに苦労されたのは、どんな音ですか?

音をつけていてとても楽しい作品だったので、あまり苦労はないかな? ただ……ちょっと迷ったのは、ウミウシの鳴き声ですね。まさかウミウシは鳴かないだろうと思って、事前に用意していかなかったんです。すると現場で篠原さんが「なんかさびしいな」と(笑)。そこで、もともと録り溜めていた中からゴムのきしみの音を取り出して、ちょっと加工してウミウシの鳴き声にしました。あと音響効果で印象に残っているのは第13話。『凪のあすから』で初めて、爆発音をつけました(笑)。

――『凪のあすから』は、途中でお話が5年間経過するという特徴がありました。先ほど、1クール目と2クール目では、海中と陸上の音の強調を逆転させたとおっしゃいましたが、そこで苦労されたこと、工夫されたことは?

1クールは“間”をセミの声で埋めていたので、2クールでセミを鳴かせられなくなったのは、わりと大きな問題でした(苦笑)。その代わりとして使ったのが、流氷のきしむ音。2クールの最初はわざとその音を大きく出して環境の変化を強調して、物語が進むに従ってレベルを下げていきました。ちなみに流氷は本物の流氷の音ではなく、いろいろな音を混ぜて作っています。本来の流氷はもっと低いきしみ音がするんですが、今のテレビだと低い音は聞こえない。そこで、ゴムのきしみ音などのピッチを下げて速度をゆっくりさせ、リバーブやディレイをかけて低いきしみ音にして作っています。あれは『凪のあすから』でしか聞くことのできない流氷音だと思います。あとは……ぬくみ雪ですね。最初に冷たくない雪、塩が結晶化した雪だと説明されたので、普通の雪より、音もちょっと固めに作りました。踏みしめても「ギュッギュッ」とは鳴らないようにしました。

――海中を漂うエナも本作ならではの物ですが、あの音はどうやって作られたのでしょうか。

ガラスとガラスをこすらせた音ですね。剥がれるエナは、ガラスの破片を落とした音を録音して作ってます。監督からもすんなりとOKが出て嬉しかったです。

――逆に、現実にある物体の音を出す場合も、アニメならではの工夫というのはあるのでしょうか?

ありますね。実写と違ってアニメの音は、すべてにおいて強弱をつけて強調しなければならないです。アップで手を叩いている場面も、ただ手を叩いている音だけでは足りない。そこに衣擦れの強い音などを乗せて厚みを出さないと、画を説明できないです。

――『実写なら、物本来の音だけで間に合うのですか?

実写は人が映っているので、音がなくても、音があるように脳が補完するんですよね。でもアニメは画なので、説明するところは音をつけ、いらないところは省いて、意識をお話に集中させる必要があります。『凪のあすから』も状況を分かりやすく説明しながら、自然に観られるように音をつけることを目指しました。

――ちなみに、仕事で使う生音は普段からフィールドワークでも収集されているんですか?

はい。どこか野外に行くときは、iPhoneにマイクをつけてPCM録音します。以前はバッテリーがすぐ切れてしまうポータブルのDATとガンマイクを持ち歩いていて、よく不審者に間違えられていました(笑)。

――では海と山らなどちらによく行かれますか?

実は磯の香りが苦手なので、どちらかと言えば山ですね(苦笑)。食べ物は海のほうが美味しいんですけどね。

――では最後に、小山さんにとって『凪のあすから』はどんな作品でしょうか?

素直に面白いと言える作品ですね。P.A.WORKS作品だとほかに『Another』にも参加させていただきましたが、P.A.WORKSさんの画作りは丁寧なので、日常芝居に生音がとてもよく載るんですよ。日常芝居は大変なので画で表現するのを避けて通りがちですが、そこにつく生音というのは、音の演技みたいなものなんです。例えば、第21話で晃がバシャッとこぼすシーンがありました。あそこは何人ものキャラクターが動いているので作画も大変だし、その後であかりが晃の世話をする場面も、普通のアニメなら画面の外で表現してしまう。そこもすべて画で観せるので、音もつけがいがありますし、生音がバッチリ合ったときは快感なんです。『凪のあすから』はそういうシーンが多かったので、僕も楽しかったひと言でいえば、音で演技のしがいがある作品ですね。それと同時に、音で無意識にネタバレをしないよう、先の話を知らずに毎話作業していたので、視聴者目線でも最終話がどうなるか楽しみな作品でもあります。