INTERVIEW インタビュー

――『凪のあすから』のキャストさんについてお聞きしたいのですが、先島 光役に花江夏樹さん、向井戸まなか役に花澤香菜さんを選ばれた理由は?

篠原
  まず光役の花江さんですが、そもそも声の質として中学生男子が演じられる役者さんって限られると思うんです。高校生まで年齢をあげるとそうでもないのですが、中学時代の幼さを表現しようとするとなかなかと難しい。その点花江君の声には中学生らしい幼さが残ってますし、荒削りでとんがった部分もイメージ通り。加えて変に卑屈にならないというか優しいんですよね、声質が。そこが魅力でした。
電撃20年祭(2012年10月20日〜21日開催)で、『凪のあすから』のイベントがあったのですが、僕と岡田さんで花江君に詰め寄って「この1年で下手に上手くならないでね!」と、ひどいことをお願いしました(笑)。もちろんこれから役者としてやっていくためには、要領よく技術も身につけなければならないのですが、花江君が持っている初々しさは手放すにはあまりに勿体ない!


変にテクニックを身につけないでくださいと(笑)。

篠原
ホントにヒドイことを言っているよね(笑)。


まなか役に関しては相当悩みましたよね。まなかというキャラクターをどう捉えるかが、皆の中で微妙に違っていて。

篠原
たぶんあの当時は、まなかというキャラクターを完全に絞り込めていない部分があって、キャラクターに幅があったんです。その中でどのまなかならば、物語の中でうまく動いてくれるのかって。

――ちなみに監督は、まなかの声に対してどんなイメージがあったのですか?

篠原
基本は素直であってほしい、ということですね。ただ物語が進むと彼女の気持ちは自分でもよくわからないほどに揺れ動き、その分演技力も要求されます。その素直さ・素朴さと演技力とのさじ加減が難しいところでした。でも一番は見ている人に、たとえ揺れ動いていたとしてもまなかを好きになってもらいたい。
アフレコで花江君とのやりとりを見ていても、花澤さんで本当によかったと感じています。

――お話を作品に戻しますが、監督は映像を作るうえで何か決められていることなどはありますか?

篠原
美しい画であるかどうかを一番気にします。美しいとは単純に綺麗ということではなくて、汚いものを捉えていても美しくできる表現はあると思うんです。例えば泥の上に汚い水が溜まっていても、それをどう撮ったら美しく見えるのかとか。そういう見せ方にはこだわっていると思います。
あとはキャラクターの繊細な感情を描きたい。極端なことを言えば画面に映し出されるすべての要素が感情に直結している映像が理想です。レイアウトだったり、キャラクターの配置だったり、立ち位置だったり、構図だったり、色だったり光だったり、もちろん音や音楽もそう。画面を構成するすべてが物語に貢献していることが基本であり理想。『凪のあすから』でも、そういう映像を目指しています。


監督は、画面を構成しているあらゆる要素の精度をひとつひとつ持ち上げて、最終画面を目指しますよね。毎回できあがった映像を見ると「こうなるんだ!」という驚きがあります。

篠原
ひとつひとつの要素を細かく見るというのは、単純に次のセクションの人に、こちらの狙いを伝えるためでもあるんだよね。やることが不明瞭だとそのセクションの人が困るし、作業も曖昧になってしまう。


本当に丁寧に細かく見ていただけるので、各セクションのスタッフからは非常にやりやすいと言われているんですよ。

篠原
本当はP.A.WORKSに入ってみたら、周りのスタッフのレベルがあまりも高くて、これは下手な仕事したらエラい恥をかくんじゃないかって必死にやってるのが実情です(笑)。


でも監督はいろいろな部分で本当にこだわられていますよね。

篠原
そうかなぁ。俺よりこだわる人っていっぱいいると思うんだけれども……。


もちろんこだわる方は大勢いますけれども、その中でも群を抜いてこだわっているのが篠原監督なのかなって。

篠原
安藤監督(*1)に比べたら全然だと思うんだけれども。少し気をつけたほうがいい?


いや、それは大丈夫です。ただ時間感覚を忘れずに打ち合わせしてもらいたいです(笑)。

篠原
よく無駄話が多いと言われるんだよね(笑)。でも仕事に関係ないことでも話すことによって、その人の性格や傾向、やり方が分かる部分もある。それで初めて「この人にはこういう部分を預けられる」というのはある。やっぱりスタッフとの対話は大切な部分であり、作品作りにおいては絶対的に必要な要素だと思う。時間感覚を忘れてしまうところがちょっと問題なだけで(笑)。

――では最後に、この『凪のあすから』で一番描きたいことはなんでしょうか?

篠原
思春期の繊細な感情、揺れ動く感情をできるだけ丁寧に描きたいというのが一番ですね。あとは膝に魚の顔の“魚面そ”ができたりもしますが、そういった少しファンタジーな部分も楽しんでいただければと。


中学生の恋愛模様のキラキラした感じを目指しました。作品を見て優しい気持ちになっていただくのはもちろん、自分の中学時代を思い返して、ちょっと気恥ずかしくなる感じを体験していただけたら嬉しいですね。

篠原
とりあえず一度見てもらって、『凪のあすから』の世界を体験してもらいたいです。



(*1)安藤監督…安藤真裕。『CANAAN』『花咲くいろは』などの監督を務める。以前、篠原監督と机を並べて一緒に仕事をしていたことがある。