INTERVIEW インタビュー

 

――ちなみに、P.A.WORKS作品は女性がメインスタッフに名を連ねていることが多い気がしますが、どう感じられていますか?

篠原
今のアニメ業界は、女性の活躍が目立ちますよね。以前より強い女性も増えたと思いますし、実力さえあれば男女問わず活躍できる業界でもある。男性よりも、女性のほうが現実的というか、責任感の強い方が多い気がします。


『凪のあすから』でも、先ほどの梶原さんを筆頭に温厚な女性の方は多いですが、みなさんやはり責任者としての厳しさも兼ね備えていらっしゃいます。シナリオの岡田さんも、仕事に対しては大変厳しい方ですしね。

篠原
そうですね。でもそれは当たり前のことですから。


どんな現場でも、なぁなぁの関係ではなく、時として厳しく叱ってくれる方がいるのは大切なことですよね。僕にも岡田さんやインフィニットの永谷(敬之/プロデュース)さんが、プロデューサーとしての心構えを説いてくれることはよくありましたし、後から振り返って助けて頂いた部分はたくさんあります。本当にありがたいです。永谷さんには、いつものようにもっと表に出て欲しかったですけど…。

篠原
いつもと違う?


そうですね、あえて今回は表に出ない宣言はされていました。それは、いつもは永谷さんがやられていることを今回僕が初プロデュースの作品ということもあり、率先して色々な経験を積ませる為なんだとアドバイスいただきました。それで“フォロワー様4万人突破感謝企画”のTwitterアイコン118個配布企画や、凪あすファンブックやTシャツデザイン制作とかの企画立案を自分がやってみたのですが、イベント系は流石にアイデア出せなかったのが反省点です。ロフトイベントは永谷さん企画ですしね、流石です。

篠原
Twitterアイコンは僕も手伝いましたが、結局10個くらいしか作れませんでしたね。


でも、ファンの方にはかなり喜んでいただけたみたいで、やって良かったです! 僕もお客さんの反応を見てテンションが上がりアイコンUP時のコメントがちょっと激しかったかもしれません(笑)。そういえば、あの118個という数は原作のProject-118から取ったんです。

篠原
トークショーでやっと、なぜ118なのかのネタバレもしましたね。


そうですね。本編制作中も東地さんには、背景のどこかに「118」という文字を入れられないかと相談したことがあって。実は、サヤマートの奥の扉に「118」と描いてあるんですよ。

篠原
そうそう。ガム文字が描かれた壁の奥というか、ビールケースの奥にある古ぼけた扉だよね。


Twitterアイコンも、スケジュールがまたギリギリ進行。最後のほうは、ロフトプラスワンのイベント日とも重なっていて、アップしながら次のアイコンを制作するという自転車操業で……心配した永谷(NBCユニバーサル宣伝)さんからも逐一、「アップが遅れてますけど大丈夫ですか?」とメールでチェックが入ってました(苦笑)。

――そういったやり取りも含めて、スタッフ同士のコミュニケーションという意味で、『凪のあすから』はとてもいい環境にあったとみなさんおっしゃっていました。


そういえば、企画開始当初、スタッフだけが見られるサイトを作ろうと画策したこともありましたね。実際は頓挫してしまいましたけど…、一時、関係者だけが見られるTwitterアカウントも作ったんですよ。通称「なぎおん!」。

篠原
ありましたね。200ツイートくらいは残っていたんじゃなかったですかね? 僕はもともとTwitterをやっていなかったので、システムがよく分からず、2〜3つぶやいただけで脱落しましたが。公式ブログのほうも、もっといろいろ書く余裕があったら良かったんですけど。


現状226ツイートですね、少な!(笑)。社内Twitterの最後のつぶやきは、社内で撮った写真とともに「みなさまお疲れ様でした」というようなことを僕が書きました。

篠原
そうそう、最終話のオンエアが終わったとき、みんなかなり盛り上がっていたよね。でもそれはとても大事なことだなと思うんだよね。作品作りは、各自が歯車ではなく自分が能動的に関われたと感じられることが大切。そのモチベーションを与えてあげるのが、僕らの仕事だと思うんです。打ち上げのときも、こんなに辛かった作品なのに「参加できて良かった」とみなさんが言ってくれて、嬉しかったな。その気持ちに、僕らが甘えてしまっていたのは本当は良くないんですけど(苦笑)。

――おふたりのコミュニケーションはいかがだったんですか?

篠原
辻くんからすると、僕が年上なぶん、言いにくいこともあったんじゃないかな?


いえ、篠原監督は何でも言いやすかったです。だから僕もガーッと言ってしまい、逆に監督からもっともな厳しい反論をもらって、僕がしょぼんとするときもありました(笑)。でも、しばらくして、監督が僕の意図を汲んでくれて、「やっぱりあのカットはこうしようと思うんだ」と言ってきてくれるんですよ。そういう優しさがありますよね、監督は。

篠原
そうだったっけ?(笑) でも辻くんの言うことは東地さんもよく気にしてて、けっこうリテイクしてましたよ。でもほかの現場では、プロデューサーと美術監督がやるとりすることってあまりないと思うんだよね。そこはP.A.WORKSならではというか、東地さんが現場スタッフと制作の間に入っていたからこその、素晴らしい協力関係だと思います。

――P.A.WORKS作品は、作画をメインとする富山県の本社スタジオ、制作をメインとする東京のスタジオと、2現場体制で作られていることも大きな特徴ですね。


そうですね。『凪のあすから』で本社の作画スタッフがメインで入ってきたのは第12話が最初なんですが、途中で本社スタッフの参加がなかったら、確実に息切れを起こしていたと思います。『凪のあすから』は予想以上に、制作的に重たい作品でした。

篠原
結局、第12話から始まって9話分、本社のスタッフさんに入ってもらったんだよね。


しかも参加の仕方も今回はイレギュラーでした。原画マンの仕事として、最初から最後までを見届けるやり方ではなかったので、非常にストレスの溜まる作業をお願いしてしまったのですが、それでも作品に愛情を感じてもらい、画にも熱がこもっていて、素晴らしい原画をあげてもらいました。社内アニメーターの牧野(博美)さん、天野(和子)さん、藤井(康雄)さんの3名で担当した要とさゆの踏切のシーンだったり、早川(麻美)さんが担当した美海が浜辺で光に失恋するシーンだったり…他にもいっぱいあります。本当に感謝しています。

篠原
吉原(正行)さんのコンテが素晴らしかった第24話の、ちさきが紡の家の前で涙をポロポロこぼしているカット。泣く芝居や食事の作画は難しいんですが、秋山(有希)さんが担当されたあそこのシーンもとても良かったなあ。それから最終話エンディングで美海が出てくる濱中のシーン。あそこはエキストラが多くて手間がかかるところなんですが、担当された宮崎(司)さんが最後まで他人に渡さず自分で原画を仕上げてくれ、凄く熱を感じました。美海の少し成長した感じがとても素敵でしたよね。もしかしたら美海愛だったのかもしれませんが(笑)。それこそ、ひとりずつ名前を挙げだしたら、ほんとキリがないですね。フリーの方も含めて誰か特定の方が凄かったからクオリティが高かったというわけではないんです。


演出の話となると……安藤(真裕)さんも凪あすには欠かせない存在でした。

篠原
本編も合計5本と大車輪でコンテを担当してもらい、さらにオープニングまでだもんね。しかもどれも完成度が高くて面白い。いやあ本当に安藤氏には助けられました。「花いろ」を全力でやっといて良かった(笑)。(本人注:どんな仕事でもいつも全力でやりますよ!)


それとまさかの第25話の処理までやっていただきました。そういえば、25話には欠番になったシーンがありましたよね。至さんとあかりさんのシーンまるごと。

篠原
1分半くらいのいいシーンだったんですけどね。安藤さんにコンテを描いてもらったのにも関わらず尺が足りなくて泣く泣く……ばっさりと。


安藤さんも「え!?」とおっしゃってました。「いちばん悩んで描いたのに」と(笑)。

篠原
普通はボツになったコンテは捨ててしまうんですけど、あのシーンだけはまだ持ってますよ。いつかどこかで公開したいです。演出陣は他の方も責任感強い方ばかりで強力な布陣でした。自分の作業量が膨大だったこともあり、細かい部分は演出さんにお任せしていました。


最初期の頃から加わってくれていたスタッフでは、プロップデザインの藤井(康雄)さんも重要なポジションでした。

篠原
何も決まっていない頃から、一緒に設定を考えてくれたからね。プロップは乗り物から設定を考えていったんですが、車の形を三輪に落とし込むまでにも時間がかかりました。漁船は最初期に作ったもので、取材もしましたし自分が運転するものでもないためか、リアル寄りの固いデザインになってしまいました。もう少し凪風に緩いものを持ち込むべきでした。


車に比べると、たしかにそうかも知れませんね。

篠原
車については相当ラフスケッチを描いてくれていて、それをネット会議でちょっとずつ詰めていきました。第2話であかりにキスをされ動揺した至が運転する車はかなりトリッキーな動きをしていますが、当初はもっとああいう使い方を色んなシーンでするつもりでした。あまり実現できませんでしたが。いちばん苦労したのは多分、おじょしさまでしょうね。特に顔の造形は。

――おじょしさまのデザインは、監督のほうから参考にしてほしいものが上がっていたと聞きました。

篠原
あぁ、円空(江戸時代の僧で膨大な数の仏像を彫った)仏の本のことかな? それは顔立ちやデザインというよりも、木彫りの荒い感じの参考だったんですけど……円空の名前を出したことで、無駄に悩ませてしまったかも知れません(苦笑)。


そういえば篠原監督からは今回、『凪のあすから』の世界観や風景イメージを共有するために、僕もいろいろな本を貸していただきました。

篠原
参考となる写真集や映画を見てもらうのは、イメージの共有という点では手っ取り早いですからね。強いイメージがある時は下手な絵でも一生懸命描きます。今の形になる前は結構たくさんイメージスケッチを描きました。そうやってはじめて頭の中に町全体が立体像として構築されていくわけです。東地さん塩澤さんの頭の中にあるものと細かいところではちょっとずつ異なってるかもしれませんが、カメラをどこを向けてもどんな風景が広がってるか、光はどっちから射してるかを共有しないとスムーズに作業を進められませんからね。それもあってロケハンはいつも楽しみにしています。


そうですね。今回は新幹線とレンタカーを乗り継いで漁港にロケハン行きました。

篠原
途中で土砂降りになったんだよね。車2台で行ったんですが、高速道路の視界がひどくて、お互いの車を見失ったり(笑)。


そうでした。取材許可を取って廃校になった小学校を見せてもらったのですが、そこは波路中学校の音楽室のモデルになっています。体育館も、最初のPVに出てきたまなかと光のステージのシーンの参考にさせてもらいました。

――『凪のあすから』は作画やストーリーも大変好評でしたが、音楽もとても人気がありましたね。

篠原
そう、出羽さんの音楽、とても良かったですよね。


打ち合わせでは多少お話をする機会はありましたが、僕らも音楽の専門家ではないので、もっと深く話ができたらいいなとずっと思っていました。

篠原
最初にこちらで音楽のイメージとして、既成の楽曲を参考としてお渡ししました。最終的には出羽さんを中心として複数の方に作曲をお願いしていますが、微妙なニュアンスの曲を多数お願いしたので、イメージがかぶりすぎないようにという配慮だったと思います。出羽さんの音楽はその中でもやはり一番凪らしい、優しい感じの楽曲が多かったです。印象に残るメロディが作れるのも強みですね。劇伴はひとつ印象に残るメロディが作れるとすごく使いやすくなるんですが、今回はひとつじゃありませんでしたからね。それと東地さんのサヤマートのボードを見た瞬間から、頭の中でずっとゴンチチが鳴って、というのがありまして(笑)。そのあたりがDEPAPEPEやSaigenjiさんの音楽につながっていったんだと思います。

――こうしてスタッフのみなさんについてのお話を振り返ると、話は尽きませんね。

篠原
そうですね。各話の個々のカットの意味とか狙いについても色々とお話できることがありますが、キリがない。

――本編の内容部分で、今だから話しておきたいエピソードはいかがでしょう?


そうですね……第19話のコンテの中に、ちさきの胸とお尻のアップがあったのを監督が削られてましたよね? あれ、ちょっと残念でした(笑)。

篠原
『凪のあすから』展で展示されてたカットね(笑)。それを言えば、そのあと紡と要が部屋の中に踏み込んだときに、ちさきが四つんばいになっていた扇情的な画も、作品観的にやり過ぎなのでナシにしてしまいましたが、残念だと思うのは辻君だけじゃないでしょうね。


あと気になったのは……要の両親。どんな人達だったんですかね?

篠原
第13話では喧嘩したという話もあったから、仲悪そうですよね、要と(笑)。本当は第18話で、自分の実家に踏み込むシーンがシナリオにあって、絵コンテのラフの段階にもあったんですけど、尺の関係で削りました。なので当然、両親はいます。


紡の両親も、ファンの方は気にされてましたね。

篠原
本編にもそれなりに話が出てきてると思うんだけど……でも父親の話は出てないですね。第9話で紡の小学校入学写真に腰の辺りだけ写ってるくらい。お母さんも、どういう繋がりのある人なのかは語られてはいない。分かっているのは、どうやら、血の繋がりのあるおじいちゃんとはソリが合ってない、ということくらい。

――キャラクターのことだと、ファンの方はキャラクターの名前の由来なども気になっているようです。メインキャラクターについては、岡田さんもお話されていますが、サブキャラクターについては、今までお話がなかったかと。例えば狭山などは?

篠原
狭山は、苗字は岡田さんで、下の名前の旬は辻くんが考えたんですよね?


漢字で並べたときに3文字にしたいと思って考えました。あと、学校のモブキャラクターに関しては、実は僕の小中学校の友達の名前からとってます(笑)。

篠原
本当に?(笑) じゃあ、要にちょっと頬染めていた女の子の……清木さんも?


はい(笑)。男子は僕の友達と同姓同名にしていて、女子は漢字を変えて読みを同じにしています。

――ネーミングといえば、『凪のあすから』というタイトルに決まるまでも、ボツになったアイディアがいろいろあったそうですね。


ありましたね。僕が考えたものだと、英語を組み合わせた……「スプラッシュ・ラブ」とか(笑)、「雨宿りは海のなか」「陸の上のうろこ姫」……。

篠原
それはないわ(笑)。


他にも「フィフスエレメント」からとった「フィフスマーメイド」。安藤さんが気に入ってた「半魚人恋物語」(笑)、「イチイチハチ」「君の瞳に映る未来はまだ僕には見えない」「時を泳ぐ少女」「ブルーデイズ」「希望の舟」。東地さんからは「純愛・塩の町」。設定制作の橋本(真英)からは「あわいの彼方」……これは篠原監督が考えられた設定からとっているんだと思います。岡田さんは3つあって、「凪のあすから」「青くて光る」「ひねもすのたり」というのがありましたね。プロデューサーの小林(由美子)さんからは、「波間のあわい」「少女は水面に恋をみる」「眠れる海のおふねひき」「水恋歌」「水面に立ちて問いし君はも」……。

篠原
かなり文学的だよね。タイトル案にも、その人の個性が出でる(笑)。これを考えている最中は、直球から変化球へとアイディアが移っていきましたが、最後は『凪のあすから』という直球に戻った。今は当たり前ですが、『凪のあすから』がいちばんしっくりきますね。

――いろいろお話を伺ってきましたが、『凪のあすから』の最終回から少し経ちますが、改めておふたりはどう感じられていますか?

篠原
そうですね……とても単純なんですが、けっして社交辞令ではなく、また辻くんを含め、『凪のあすから』チームのみなさんと一緒に作品を作ってみたいと思いますね。


まったく同感です!!

篠原
『凪のあすから』は挑戦的な作品だったこともあり、僕も余裕がなくて上手くいかない部分もあり、現場も厳しいことが多かったですが、こうして大団円を迎えることができたのは、本当に優秀なスタッフの方々のおかげ。またぜひ、いい作品で視聴者のみなさんにもお目に掛かりたいですね。