INTERVIEW インタビュー

 

――高橋さんはこれまでもP.A.WORKS作品に参加されていますが、今回はキーアニメーターとして『凪のあすから』に参加されています。

そうですね。ただ以前までは数カット。ガッツリとP.A.WORKS作品に携わるのは今回が初めてです。最初、辻くん(充仁/アニメーションプロデューサー)から「お願いしたい新作があるんですけど、2クールなんです」と言われて、ちょっと躊躇しました(笑)。

――どのスタッフの方も、辻プロデューサーからの提案に最初は躊躇されたとおっしゃってます(笑)。

やっぱりメインで26話、2クールを乗り切るのはなかなかしんどいんですよね。今までP.A.WORKS作品に関わってきて現場の底力は知っているのですが、あの高いクオリティを半年間続けるのは大変なことですから。でもその後も何度か連絡をいただき、資料を持ってわざわざ足を運ぶこともしてくれました。でもその段階でもまだ躊躇していました(笑)。物語も仕掛けも面白いと思ったのですが、キャラクター原案などを見せてもらって、「僕にはちょっと厳しいかも?」と思ったんですよ。それまでは、しばらくリアル系に振った絵ばかり描いていましたから、イマドキのパッと見て惹き付けられるキャッチーな絵を、俺に動かすことができるのかな? って。

――引き受けることになるきっかけはなんだったのでしょうか?

フリーになって20年近く経ちますが、まず自分を信用して最初に声を掛けてくれた人を優先するという条件はなんとなくあるんです。それが5割くらい。あとは、1クール目と2クール目で話ががらりと変わるという仕掛けの面白さですね。それだけに大変な現場になるだろうという予感はありましたが、P.A.WORKSさんなのでクオリティに間違いはない。きっと辻くんがやりやすい環境も作ってくれるだろうと思い、お引き受けしました。

――制作業をスタートされた際、最初に手がけられたのは?

御霊火かな? 火のエフェクトパターンを作る作業ですね。第1〜2話まではまだ時間がありましたので、その間に、6秒分くらい炎のパターンを作りました。

――『凪のあすから』は海中が重要な舞台になりますが、そこはどう考えられましたか?

僕自身も企画書の段階で、「水中の表現はどうするんだろう?」という疑問はありました。大変なことをさせられるんじゃないか? という懸念が、参加を躊躇させていましたし、辻くんのことだから、エフェクトは僕がやらされるんだろうなと(笑)。


――篠原監督や総作画監督の石井さんなどとの打ち合わせでは、当時どのようなお話がでましたか?

最初の話し合いは、第1話の作監打ち合わせでした。そこで全体的なお話を聞きして、作画に関しては、できればどこか1話をひとりで作画監督する機会が欲しい、とお願いしました。実は篠原監督とは、仕事で少しだけ重なったことがあって、『凪のあすから』の初打ち合わせで初めてお会いした時も、「あの高橋くんだよね?」「篠原さんですよね?」という会話がありました(笑)。若い頃、20数年前のお互いの仕事ぶりはなんとなく知っていたので、入りやすかったです。

――篠原監督の口から作品のコンセプトを伺って、どんな印象を持たれましたか?

ファンタジーとはいえ、海中と陸で話が展開する……はじめはコンテを見てもあまりピンと来なかったんですが、最初の色つきのフィルムを観た時に「あぁ、こんな感じなのか」と漠然と理解した気にはなりました。

――総作画監督の石井百合子さんとは?

初めてですね。僕もP.A.WORKS作品には何度か参加していたので、打ち合わせで初めてご挨拶した時に「絵はよく見ています」と言われたことは覚えています。僕も石井さんのことは、キャラクターデザインを拝見していたくらいですが、石井さんの作監修正の1発目が上がってきて「すごいなぁ」と思いましたね。第1話のグランドを覗いているまなかの正面顔がめちゃめちゃ良くて、「この絵を俺が描くのか!……この域には達せないかも」と思いました(笑)。目に入った途端、可愛さも含めてまなかの雰囲気が一発で伝わる絵。それは今もスタジオに貼ってあり、常にそれを目標に仕事を進めています。

――先ほど、当初はこんなに可愛いキャラクターを描けるのか? と思われたとおっしゃいましたが、実際に描かれて、どう感じましたか?

第1話は、自分ではそこそこ描けたんじゃないかと思いながらレイアウトを出すんですが、石井さんから修正が戻ってくると……きちんと直ってるんですよね。そこで「やっぱりこの絵だよな!」と納得するという。僕の2話の作監作業も同時進行くらいだったので、ますますプレッシャーがかかりましたね(笑)。

――『凪のあすから』は海と陸の人々を描いていますが、高橋さんは海派ですか? 山派ですか?

山派ですね。僕は生まれ育ったところが県境の山の中で、Google Earthで見るとほとんどが森にしか見えない地区の出身なので、山と川がある風景は落ち着きます。

――先ほども『凪のあすから』のファンタジー感は魅力だとおっしゃっていましたが、高橋さんが子供時代に好きだったファンタジー、絵本を教えていただけますか?

絵本やファンタジーは、むしろ歳を取ってからのほうが読むようになりました。幼少の頃は山で遊んでばかりいたので、山で道を見失いながら歩き回り、本当に偶然、家の近所の道に出られて助かった……というようなファンタジー体験はあったんですが(笑)。子供時代のファンタジーといえば、民話くらいですかね。土地土地の民話は面白く読んでいました。

――では最後に……まだ制作もオンエアも続いていますが、高橋さんにとって『凪のあすから』は、どんな作品になりましたか?

自分自身がスキルアップできた作品ですね。話も面白いですから、いち視聴者として最終話がどうなるかとても楽しみにしています。